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医師主導治験の費用:補助金や企業からの資金提供を受ける際の注意点

医師主導治験を始めるにあたり、絶対に必要なものの1つは、「運営資金」です。

企業治験の3分の一の資金で済んだというくらい、医師主導治験で使われる費用は抑えられています。

費用を抑える方法を知ることも必要ですが、まずは、運営資金を確保しなければなりません。資金の提供を受ける場合、「透明性の確保」と「資金管理」が新たな課題になってきます。

そこで、今回は医師主導治験を実施する際に必要な資金をどこから調達するか、また、その際の注意点と対応策等お伝えしていきます。

これから医師主導治験を始められる方、検討中の方、また、このページを機に医師主導治験を始めたいと思われる方にとって有益な情報になるでしょう。

治験に関する参考図書を準備しておくとよりスムーズです。

医師主導治験にかかる運営資金の提供元とは

医師主導治験の運営資金の提供元は、大きく以下の2つが該当します。

  • AMED:国立開発研究法人 日本医療研究開発機構
  • 民間資金

2015年にAMEDが設立されました。それまでの公的資金源であった、科学研究費助成金は全てAMEDから受けることになります。

AMEDとは

国立研究開発法人日本医療研究開発機構:AMED(Japan Agency for Medical Research and Development)

設立:2015年4月1日

事業目的:医療の分野における基礎から実用化までの研究開発が切れ目なく行われ、その成果が円滑に実用化されるよう、大学や研究機関などが行う研究を支援し、研究開発やそのための環境の整備に取り組んでいく。

AMEDを参照

一方で、民間資金とは、企業からの資金提供が最も多いです。昨今の状況を踏まえると、クラウドファンディングなど一般の公募も増えてきてもおかしくありません。

実際に、国立病院が採算の合わない病棟における支援のため、クラウドファンディングで500万円以上集めた例も出てきています。

特に、寄付をする側は、特定公益増進法人への寄付ということで、所得税・相続税・法人税の税制上の優遇措置が受けることができます。

そのため、病院に対して、寄付をしやすい環境にあることは間違いありません。

公的資金にせよ、民間資金にしせよ、医師主導治験を動かすための資金には、注意点や課題があることを忘れてはいけません。

既存の注意点や課題を知っていれば、少しでも直面する課題が減るため、事前に把握しておくことは重要です。

特に、課題を認識しないまま進めてしまうと、時間的なロスが確実に生じてきます。

上に挙げた2つの資金のうち、AMEDからの公的資金は、申請時期があります。そのため、AMEDへの申請時期を鑑みて、治験計画を立案していく必要があります。

臨床研究・治験活性化新たな5カ年計画の「民間資金の充実」の概要

まずは、臨床研究・治験活性化新たな5カ年計画までの概要についてみていきましょう。

臨床研究・治験活性化新たな5カ年計画の概要

出典:平成27年度第2回臨床研究・治験活性化協議会 臨床研究・治験の現状と今後の動向について より

1997年に新薬承認審査の基準を国際的に統一するルールとして、ICH-GCPが日本にも導入されました。

しかし、日本はこのルールに対応することができず、臨床試験の数は減る一方でした。

ICH-GCPとは

各国の規制当局による、新薬承認審査の基準を国際的に統一し、 医薬品の特性を検討するための非臨床試験・臨床試験の実施方法やルール、保存すべき文書または記録などを標準化するために、設けられた。

それを受けて、2003年に「全国治験活性化3カ年計画」が文科省と厚労省によって打ち出されることにより、治験環境の整備が進み、治験届出数が徐々に増加していきます。

次の段階として、2007年に打ち出された「新たな治験活性化5カ年計画」では、国民に質の高い最先端の医療が提供され、国際競争力強化の基礎と なる医薬品・医療機器の治験・臨床研究実施体制を確保し、日本発のイノベーションの創出 を目指しています。

それにより、治験ネットワークの構築化推進や治験実施体制の充実、人材育成が強化されました。

その結果、これまでの10年間で、治験届出数が2倍近くに増えていることが、上の表からわかります。

引き続いて、治験活性化に向けて、さらなる飛躍を期待し、開始されたのは、「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」です。ここでは、企業治験の推進から、医師主導治験を含む研究者主導の論証研究の促進に向けて、新たな5カ年計画がスタートしました。

この5カ年計画では、以下の4点が主な課題としています。

  1. 治験・臨床研究を実施する医療機関の整備
  2. 治験・臨床研究を実施する人材を育成し、確保する
  3. 国民への普及啓発と治験・臨床研究への参加を支援する
  4. 治験・臨床研究の効率的な実施と、企業負担を軽減する

特に、開発が進みにくい分野への取組の強化等という名目で、以下3点については具体的に解決策を提示しています。

  1. 小児疾患、希少・難治性疾患等への取組
  2. 医療機器・先端医療等への取組
  3. 資金提供等

ここにきて、ようやく資金提供における課題が認識されるようになりました。

臨床研究・医師主導治験に対する民間資金の充実の概要

短期的目標として、「質の高い大規模臨床研究がより実施しやすくなるよう、公的研究費による支援の在り方について検討する。」としています。

さらには、中・長期的目標として、臨床研究・医師主導治験を実施する際の資金を充実するために、以下の2つの取り組みを行うこととしています。

  1. 臨床研究・医師主導治験における支援財団の育成について厚生労働省・文部科学省と共同で検討する。
  2. 企業からの資金提供の方策を検討する。その際には、透明性の確保を広く保証するために、利益相反の管理や被験者への説明と同意を徹底する

厚労省HP 「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」より抜粋

つまり、「透明性の確保」、「利益相反の管理」と「被験者への説明と同意」を徹底することで、企業からの資金提供を受けて臨床研究や治験を実施して良いことが読み取れます。

企業資金を提供してもらう際や企業の関与についての注意点

以下には、「透明性の確保」と「利益相反の管理」について、深掘りしていきます。

「透明性の確保」に関するガイドラインについて

治験の運営にあたり、企業から資金を提供してもらうために、「利益相反の管理」という観点から、以下のガイドラインを考慮しなければなりません。

  • 企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン(以下、「透明性ガイドライン」という):日本製薬工業協会(以下、製薬協)が 作成した、加盟会社に対する自主的なガイドライン

このガイドラインが制定された発端は、2009年に、世界医師会(WorldMedialAssociation:WMA)から、「医師と企業の関係に関するWMA声明」 が発表されたことによります。

これに対応する形で、主要国において製薬企業から医師や医療機関への金品の提供に関 する情報公開のルール作りが行われています。

それを日本では、「透明性ガイドライン」とし、企業と医療機関等の関わりに透明性を持たせることにしました。

一方で、米国バージョンは、「サンシャイン:sunshine条項:米国の医療保険改革法の一部として作られた法律条項」です。

米国のsunshine条項には法的な強制力があり、報告の漏れや意図的な隠ぺいに対して、最大年間 115 万ドルの罰金が科せられる可能性があります。

これに反して、日本の「透明性ガイドライン」は、法的な強制力を持つものではありません。

この二つの条項とガイドラインの違いを表で見てみましょう。

参考:米国のサンシャイン条項と日本の透明性ガイドラインの違いに関するQ&A

開示対象者について、米国ではあくまで、医師または、教育研修医療機関のみが対象となります。

一方で、日本では、薬剤師や看護師などの医療関係者をはじめとして、薬局や老人保健施設も該当します。

治験費用として、企業から資金提供を受けたり、薬剤等の提供を受けたりする場合は、事前に、院内のCOI マネジメントのルールなどに則り、適切な委員会にて承認してもらう必要があります。

特に、院内プロセスを踏んでいなければ、治験審査委員会を通過することができません。そのため、透明性ガイドラインに従う必要があります。

たとえば、治験費用ではありませんが、治験薬や対象薬、また、治験薬概要書などの資料を提供してもらうことも可能です。その代わりとして、治験で発生した安全性情報を提供元の企業に提供するなど、契約書に盛り込むようにしましょう。

そのほか、治験組織の一つである、効果安全性評価委員会(別名:データモニタリング委員会 以下「DMC」)を設置する場合、治験調整医師は、効果安全性評価委員会委員の利益相反の有無を確認する必要があります。

透明性ガイドラインを理解し、必要なプロセスを踏んだ上で、提供される資金の透明化を提示できれば、治験審査委員会でネガティブな指摘を受けることはありません。

「利益相反の管理」に関するガイドラインについて

COIとは

COI(Conflict of Interestの略)とは、利益相反のことです。

具体的には、企業等からの資金提供によって実施された、医学研究の結果の判断が、資金提供元にとって有利あるいは不利になる可能性がある場合、公正であるべき研究結果の判断に影響をもたらしかねないと、第三者から見て懸念される状況を意味します。

公的資金を利用する際の課題

公的資金と呼ばれるものには以下の2種類があります。注意点を理解しないまま運用すると、思わぬ落とし穴があるため、気をつけたいところです。

  • 病院からの補助金
  • AMEDからの補助金

病院からの補助金としては、たとえば、臨床研究推進補助金というものがあります。各病院によって呼び方が違いますので、該当する補助金があるか、事務担当者に確認してください。

AMEDからの補助金について、注意したい点を、以下、4つの項目にフォーカスして、説明します。

  • 院内における、COIの審査を通しておくこと
  • 公的資金の運用は年度単位で進捗状況とマッチしない場合がある
  • 公的資金は使途に制約が多すぎる
  • CRO利用時に必要な、公開入札プロセスに時間と人が取られる

治験では院内で、COIの審査を通しておくこと

AMEDからの補助金を受けるには、当該補助金の申請をする前に、事前に院内のCOI委員会等にCOIの審査を申し出ることとされています。

AMEDからの補助金の交付申請書に、院内で協議された交付申請書を添付する必要はありません。

しかしながら、交付申請書提出時に、COI委員会等にCOIの審査の申し出がなされているか等について、報告が求められることがあります。

厚生労働省又はAMEDでは、必要があると認める時には、COIについて調査を行うことができます。その際に、COI委員会の審査の結果を提供する必要があります。

参考:厚生労働科学研究における利益相反(Comflict of Interest : COI)の管理に関する指針

医師主導治験の流れや注意点については「医師主導治験の流れ・注意点をわかりやすく解説」に詳しく書いています。

公的資金の運用は年度単位、進捗状況とマッチしない場合がある

治験とは、だいたい遅れるものである。ということを前提として、資金の運用プランを立てる必要があります。

大企業で、好きなだけ人的リソースをあてがえる、そのような状況でさえ、数ヶ月の遅れが生じてきます。

特に、初めての医師主導治験で限られた資金で実施する場合、準備段階からつまずき、被験者登録が計画通りに進まないなど、治験が遅れる要因はたくさんあります。

治験が大幅に遅れるなどで、単年度に使用する金額が申請時と極端に違ってくる場合は、事前にAMEDに説明書等の書類を提出する必要があります。

公的資金は使い方に制約が多すぎる

公的資金のため、使途に制約が多いのは頷けます。

たとえば、「物品費」「旅費」「人件費・謝金」「その他、外注費など」は直接経費と呼ばれています。

この直接経費が、費目(上記4つ)ごとの当該流用に係る額が、当該年度における直接経費の総額の50%を越える時は、事前に「研究開発計画変更承認申請書」【計画様式4】による申請が必要となります。

参考:委託研究開発契約事務処理説明書(平成30年度版)

治験を始める時には、企業治験でも医師主導治験においても、準備段階にかかる人的リソースの割合、すなわち、「人件費・謝金」が多くなります。

制約がある中での運用と割り切り、予め、申請書など必要なものを準備しておく必要があります。

詳しくは、前述した、委託研究開発契約事務処理説明書を確認しておきましょう。

治験ではCRO依頼時に必要な公開入札プロセスに、時間と人が取られる

公開入札プロセスについて、簡単に触れておきます。

AMEDでは、公的資金をCROなどの開発業務受託機関へ支払いをする際には、特定の1社ではなく、公開入札することを原則としています。

公開入札をするためには、まず、公開入札に係る院内ルールを理解し、仕様書を丁寧に作成しなければなりません。

公開入札を開示後、役務の提供等の担当者が動き出すまでに、3〜6ヶ月ほどかかります。

また、入札しても、実際に誰も入札しない場合もあります。そのようなケースにおいては、公募金額が低すぎるなどの原因があるため、一度見直しが必要になります。

さらには、自分たちで受託してもらえる企業を探さなければなりません。

公開入札プロセスを経ることで、時間的にも人的にもリソースが取られてしまいます。その段階から、割り切って第三者に依頼していくことも検討していきましょう。

限られた資金で医師主導治験を実施するための人材やCRO/AROの選び方

限られた資金で、医師主導治験を実施するための人材やCRO/AROの選出について、お伝えします。

医師主導治験を実施するにあたり、院内のメンバーだけではカバーしきれません。かといってCRO/AROに丸投げも費用がかかりすぎます。

ここでご紹介するのは、

医師主導治験は、自施設のCRCの協力得て、エンロールやCRAは小規模CROに任せて、別途独立した治験コンサルタントに運用を相談する

という方法です。

これは、米国で取られている方法です。

米国では、すでに、CROや治験コンサルタントの使い分けがなされています。

企業が主導する大規模なグローバル治験は、大手のCROに丸投げします。

一方で、医師主導治験や医療機器治験など、規模の大きくない治験は、中小のCROまたはAROと協働することで、経費を抑えることができます。

特に、治験の計画の段階から、必要書類の作成等、手間暇がかかる作業が多く、診療の傍らで実施するには時間がかかりすぎます。

その段階では、治験コンサルタントの力を借り、治験審査委員会での審査を受ける頃に、中小CROに引き継ぐという方法は、治験全体をスムーズに進めるには、効果的な方法です。

しばしば、中小CROだから質が担保できるのかどうか、という疑問をいただくことがあります。

これについては、むしろ、大企業で治験を経験してきた人たちが中小CROを牽引していることもあるため、CROの規模は関係しません。

依頼する場合は、担当者と折り合いが合うかどうかも含め、医師主導治験を任せられるかどうかを見極めていく必要があります。

院内の人材と外部の人材をうまく使い分けていきましょう。

治験運用のコンサルタントの紹介が必要な方はこちらよりご相談ください。

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まとめ

医師主導治験を実施する際の資金の調達先、注意点と対応策等をお伝えしました。

細かいルールがある中で進めていくため、すべての書類に目を通して、進めるには、時間的ロスがあることはお分りいただけます。

また、医師主導治験ならではのCROや治験コンサルタントの使い方についても、触れていきました。

治験コンサルタントの協力が得られて、治験の準備段階からバックアップしてもらえるのは、非常に心強いです。

また、いよいよ治験が始まるという段階で、CROへの引き継ぎが開始できれば、事務手続きに係る作業もスムーズに行えます。さらには、コストの面でも有利に働くでしょう。

治験コンサルタントや中小規模のCRO或いは、医師主導治験を経験済みのCROを紹介してもらいたい方は、こちらよりご連絡ください。

治験に関する参考図書はこちらです。

2020年8月31日付で発出された薬機法一部改正の通知はこちらにまとめています。

医師主導治験の流れを把握したい方は、こちらをご覧ください。

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