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医師主導治験における監査で注意すべき点 〜オーディットの手順書やチェックリスト〜

医師主導治験に限らず、治験を進める上で、必ず実施しなければいけないのが「監査」です。

しかし、実際には治験の実務者に関わらない者が監査を実施するため、何を見られるのか、何を指摘されるのか不安になるところです。

そこで、今回は、医師主導治験において、監査のために準備しておくことや、監査への対応などを具体的に紹介します。

監査で何を見るのかを事前に知っておくことで、実際の治験で、どこに気をつけて治験を進めるべきかがわかるようになります。

医師主導治験の流れと注意点について知りたい方は、「医師主導治験の流れ・注意点をわかりやすく解説」の記事に詳しく書いています。

医師主導治験と企業治験の監査実施の違い

医師主導治験と企業治験の監査実施の主な違いは、以下の2点です。

  • 「監査に関する計画書」及び「業務に関する手順書」を実施医療機関の長に事前提出すること
  • 上記2点を治験審査委員会の審議を受けなければいけないこと

監査担当者は治験実施の組織とは独立していることが条件です。

そのため、できれば治験審査委員会に提出される前に、「監査に関する計画書」及び「業務に関する手順書」案を入手して、治験計画書等の内容から、不明点や監査対象に不備はないか確認しておきましょう。

また、不備があった場合は、自ら治験を実施する者に提案する必要があります。

治験実施前に、監査についてある程度明確にしておきたいこと

治験の準備が進むと、監査については、ほとんど話題に上りません。

そのため、標準業務手順書(SOP)を入手した時点で、ある程度の監査実施の概略を考えておく必要があります。

たとえば、以下のような項目が該当します。

  • 監査実施時期(タイミング)
  • 監査対象の範囲
  • 監査を実施する場所
  • 監査報告書及び監査証明書の提出先

とくに、監査対象資料の監査場所については、IoTを利用することで訪問せずに監査を行うことも可能な場合があります。

また、多施設共同治験の場合において、たびたび話題となるのが、監査報告書及び監査証明書の提出先です。

GCPでは、提出先として「自ら治験を実施する者及び実施医療機関の長(第26条の9)とのみ規定されているのみです。

そのため、「監査対象の実施医療機関のみ」や「当該治験に参加しているすべての実施医療機関」など提出先を特定できるよう、あらかじめ自ら治験を実施するものと協議し、監査に関する業務手順書を定めておくことをおすすめします。

医師主導治験における監査の全体像

監査は、臨床試験のモニタリングまたは、品質管理業務とは独立、分離されたもので、試験の品質保証のために、標準業務手順書(SOP)やGCP等の遵守状況を客観的な立場から評価することです。

企業治験も医師主導治験も監査の目的は同じです。

監査担当者の責務(GCP第26条の9)

監査担当者は、監査を実施した場合には、監査で確認した事項を記録した監査報告書及び監査が実施されたことを証明する監査証明書を作成し、これを自ら治験を実施する者及び実施医療機関の長に提出しなければならない。

継続審査、IRBの責務(GCP第31条、第32条)

医師主導治験では、実施医療機関の長はモニタリング報告書及び監査報告書を入手した場合、IRBの意見を聴くことが求められる。

監査で大切なのは、監査前より監査後

監査では、指摘を受けないことが良いことというわけではありません。

むしろ、指摘を受けて、それをしかるべき手段で改善したという結果が重要です。

監査で指摘された事項が改善されているかについては、PMDAにおける調査で、指摘を受ける可能性があるため、指摘事項は必ず解決するようにしましょう。

監査は2種類ある

治験における監査は、2種類あります。

項目治験システムに関する監査個々の治験に対する監査
監査の対象治験実施医療機関等において、標準業務手順書が整備されているか、またそれに従って治験が実施されているかどうか、試験の実施組織・体制、システムの適切性を評価する監査。個別の臨床試験を評価する監査。
規制当局に対する申請書の重要性、被験者数、治験の種類、被験者に対する危険性のレベル、治験データに疑問が生じる施設等から、事前に作成した監査計画書に従って、また、モニタリング等で見出されたあらゆる問題点を考慮して実施されます。
監査の対応者治験調整医師・治験調整事務局治験調整医師
実施時期治験開始前(症例登録前)治験開始時(症例登録後)、治験中、治験終了後
実施施設数1〜数施設:√nで決めることが多い
n:実施医療機関数

監査の実施時期については、あくまで目安です。

最初と最後のみ、または、最後に一括で監査をするケースもあります。

これから実施する治験で経験者が少ないほど、早めに監査を入れて、不備があれば整備していくやり方がベストです。

システム監査は、治験を始めるための環境が整備されているかを確認するために、行われます。

個々の治験に対する監査は、治験実施計画書通りに実行されているか、重大な違反はないかといった、治験そのものにフォーカスされます。

必ず、両方の監査を実施するため、発生する書類等については、常にファイリングするなど、日頃から整備しておきましょう

モニタリングと監査の違い

モニタリングと監査は一見似ているようで、役割が違います。

モニタリングは、品質管理を目的としており、治験関連の質に求められる事項を充足しているかどうかを検証するための品質保証システムの一環として行われるものです。

一方で、監査は品質保証を担保すること、つまり、治験の実施、データ作成、文書化及び報告が治験実施計画書及び本基準を遵守していることを保証するために設定されたものです。

モニタリングがQC(品質管理)に対して、監査はQA(品質保証)と覚えておきましょう。

治験に関する参考図書を準備しておくとよりスムーズです。

多施設共同治験における監査する治験実施医療機関数の求め方

他施設共同治験において、監査対象となる、治験実施医療機関は、√nで求められるケースが多いです。

nは実施医療機関数になります。

たとえば、10施設で治験を実施する場合、√10=約3ということになり、3施設が対象になります。

さらに、その抽出される3施設は、被験者数が多かったり、治験の実施中の逸脱が多かったりするケースが監査対象になるケースが多いです。

医師主導治験の監査手順書雛形、監査マニュアルとチェックリスト等

・医薬品GCP第26条の9第1項ガイダンス

・監査手順書雛形 治験促進センター

・「医師主導治験における監査マニュアル」日本QA研究会2018年3月

・「臨床試験のモニタリングと監査に関するガイドライン」治験活性化に資するGCPの運用等に関する研究班

詳しくは、「医師主導治験 通知等リンクまとめ」をご覧ください。

まとめ

医師主導治験と企業治験で実施する監査の違いに触れ、全体像について紹介しました。

監査を実施するためにも、治験が始まる前の早い段階で、監査に関する詳細を自ら治験を実施する者と詰めておいた方が良いことがわかりますね。

医師主導治験については、監査マニュアル等充実しているため、治験が始まる前に、どういった点が指摘されるのか、あらかじめポイントを押さえておくことをオススメします。

医師主導治験と企業治験の違いについては「「医師主導治験」と「企業治験」の違い 6つのポイントを抑える」の記事に詳しく書いています。

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