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医師主導治験における問題点や課題に触れ、解決策について考える

医師主導治験を経験したことのある方は、治験を実施していく上で、いくつもの問題点に直面したのではないでしょうか。

また、これから治験を始めようとされる方にとっては、治験を進める上で何がボトルネックになるのか、想像がつかないものです。

医師主導治験を進めていくと、問題点や課題というものは、必ず表面化してきます。

そこで、今回は、遭遇する可能性のある問題点や課題について触れ、解決策を共有させていただきます。

あらかじめ知識として身につけておけば、問題に直面した時の判断材料になりますよね。

より多くの問題点とその解決策を把握すると、時間もコストも削減されますので、多くのベネフィットを感じられることでしょう。

治験に関する参考図書を準備しておくとよりスムーズです。

問題点1:医師主導治験における最大の問題点は「実施体制の不備」

医師主導治験は、院内の人材を活用して、自主的に治験を進めていく必要があります。その中で重要なリソースは、

  • 治験コーディネーター(CRC:Clinical Research Coordinator)
  • 治験調整事務局担当者

に尽きます。

治験の中身をサポートするCRCと、治験の全体をまとめていく治験事務局担当者です。治験を進めるときに、これらの担当者は、非常に重要な役割を果たします。

それは、治験の知識と経験を身につけた専門家だからです。

それぞれについての問題点と解決策について、説明していきます。

CRCのように、治験に必要なスキルの高い「人材」を確保することは難しい

CRCは、治験の実施を円滑に行うために、治験責任医師や治験分担医師をサポートをし、治験の倫理性や科学性を担保する役割を担う専門職です。

そのため、質の高い治験を実施するためには、質の高いCRCの存在は不可欠です。

こちらがCRCの主な業務です。

CRCの主な業務

  • 同意説明の補助作業などの被験者対応
  • 医学的判断を伴わない業務
  • 治験に係わる事務的業務
  • 被験者のスケジュール管理や院内の治験関係者のスケジュール調整(説明会開催など)

CRCは上記のような治験業務を学校などで教わることはありません。

しかし、院内では、専門職を育成する人材や時間的余裕などないのが現状です。

CRCは、導入時研修を受けた後、OJTで実践しながら業務を覚えていくことがほとんどです。稀ではありますが、導入時研修も受けずに、業務に就くケースもあります。

特に医師主導治験は、限られた予算の中で治験を遂行していくため、モチベーションの維持が重要になってきます。

こちらは、CRCはどのような場面で辛いと感じているか、webベースで調査した結果です。

CRCが辛いと感じる場面

  • 症例報告書作成時など、医師との時間確保が難しい
  • 関連部署と連携して業務を行うため、高度なコミュニケーション能力を問われる
  • 医療従事者にも様々な人がいるので、人間関係の構築が大変である
  • 慣れない事務作業が多い
  • 複数の治験を担当すると、プロトコルの逸脱が起きていないか精神的な負担が大きく感じる
  • 重篤な有害事象報告に対応するため、24時間拘束されている気分になる

CRCは、高度なコミュニケーション能力を求められる中で、治験に関する専門的な知識や細かい事務作業をこなしていかなければなりません。

大切なデータを取り扱うことができるような、真面目で几帳面な方に向いています。

こちらは、CRCのやりがいについて、web調査した結果です。

CRCがやりがいと感じる場面

  • 被験者(患者様)とじっくり関わることができる
  • 院外の人間関係ができて、視野が広がる
  • 学習の機会に恵まれた環境で働ける
  • 治験終了時の達成感や、自身が担当した治験薬が承認された時の喜び

CRCは、プロジェクトを推進して、チームの一員として役割を担いつつ、新たな知識や人間関係を構築することにやりがいを感じているということがわかります。

実施体制の不備を少しでも改善させる方法とは

スキルの高い人材の確保には、勉強会の機会を設けて、継続的に新たな知識を取り入れることが重要です。日々の積み重ねた実践と勉強が相乗効果を発揮していくからです。

勉強会は、「内部研修」と「外部研修」があります。

内部研修とは、医師をはじめとした、院内の専門家からの講義や、自分たちで企画した事例を持ち寄る研究会などを言います。

チーム構築やコミュニケーションの場になるため、定期的に行うことが治験をスムーズに進行させるコツとも言えます。

特に、取り扱っている治験薬や治験機器のこと、また対象疾患の詳細などは、意外に知らないことも多いです。

日々の業務に追われ、なかなか突き詰めて勉強する機会が少ないものです。

内部研修例

  • 医師から、病気や治験薬の講義
  • 治験薬・治験機器提供会社からの講義
  • 事例報告会

外部研修とは、例えば、日本臨床薬理学会が推奨している研修です。

CRC経験年数と研修時間を満たすと、認定CRC受験資格が与えられます。

このような認定制度を利用し、資格取得に目標を持つことは、モチベーションアップにつながります。

また、研修システムを導入するだけで、外部からの良い人材が集まりやすい状況を作り出すことができます。

外部研修に参加した後は、必ず、チーム内でシェアする仕組みを作ることで、自身の理解やプレゼン能力を高めることができます。

他のメンバーの勉強の機会にもなるため、取り組まれることを強くおすすめします。

外部研修例

  • 日本臨床薬理学会推奨の研修
  • 日本臨床試験学会主催の教育セミナー
  • AMED主催のシンポジウム

CRCのための、主な外部研修はこちら *日本臨床薬理学会のページにリンクします。

治験のマネジメントをする治験調整事務局が治験の成功の鍵を握る

多施設共同の医師主導治験では、プロジェクト全体をマネジメントする治験調整医師が必要になり、治験調整事務局を設置します。

これは、多施設間の調整や治験中に生じた疑義調整等、実施医療機関間の調整を行うことが目的です。

中でも、治験調整医師をサポートする、治験調整事務局担当者が必要になります。

治験調整事務局担当者は、書類管理やスケジュール調整といった、誰でもできる事務員ではありません。

GCPを理解し、医師主導治験について、しっかりとした知識を持ち合わせ、治験全体を管理できる人材を指します。

主に、以下のような業務があります。

治験調整事務局の主な業務

  • 治験機器提供者からの情報提供等に係る調整
  • 治験計画届書等の届出
  • 安全性報告・不具合報告
  • 治験実施計画書等の治験にかかる書類を作成等
  • 治験期間中に起こった事態への対応に関して実施医療機関間の調整
  • 問題症例の取扱い、症例データの取扱いに関する実施医療機関間の調整
  • 各委員への委嘱業務及び各種委員会の運営業務等に係る調整
  • 治験薬・治験機器提供元との調整
  • CROへの業務委託に関する調整
  • 治験の進行・記録の保存・治験の中止にかかる調整
  • 当該治験機器製造販売承認申請後の当局対応に係る調整

治験事務局担当者は、院内・院外の関係者との調整が必要となり、コミュニケーションスキルの高さが要求されます。

それに加えて、行政に提出する書類の作成などといった、品質管理業務も担当するため、総合的な能力を兼ね備えた人材が望まれます。

稀に、治験調整事務局を、企業治験のように、治験依頼者が行う業務をする組織と理解される場合がありますが、違います。

また、IRB審議資料などの書類準備を治験調整事務局に依頼するという認識をされる場合も間違いです。このような業務は、治験実施施設で準備するものです。

治験事務局担当者に欠かせないスキル
  • 医師主導治験に対する理解度
  • 事務処理能力
  • コミュニケーションスキル

治験全体を管理するということは、プロジェクトマネジメントを意味します。このような人材が、一つの医師主導治験に参加してもらうことはとても難しいのが現状です。

ただでさえマンパワーや予算が不足しているためです。

治験事務局担当者をどう確保するか

では、治験事務局担当者をどのように確保すべきかについて、解決策として、提案していきます。

コストの面でも、効率の面でも、1番おすすめなのが、治験準備から、被験者登録までにかかる作業を外注する方法です。

企業治験で言われるのは、「治験の労力は準備に8割、被験者登録からクローズまでが2割」です。

その中でも大切なことは、慣れた専門家の協力を得て、いつでも院内の人材に引き継ぎができる状況を作っておくということです。

やり方としては、治験の立ち上げをCROに外注し、専任で、治験調整事務局担当者を1人配属させます。

OJTとプロジェクトマネジメントセミナーなどの座学を同時期に学ぶことができれば、相乗効果で、マネジメント能力が育ちます。

被験者登録の段階になれば、外注先のCROは、相談要員として、コンサル契約を締結しておけば、問題点を解決する近道ができるのです。

問題点2:医師主導治験では「CRCの負担が増加」する

医師主導治験では、CRCの負担が増加すると言われています。

通常のCRC業務に加え、治験調整事務局業務やIRB資料準備などの業務が割り振られるからです。

企業治験であれば、モニターが準備している、IRB資料や被験者ごとの必要書類や記録を収納する症例ファイルなども、CRC自らが作成しているのが実情です。

また、煩雑な事務手続きをすることも、慣れない作業のため、負担に感じるCRCは多いです。

ただ、一度経験すると、今まで企業治験ではモニター任せだった企業側の手続きがよく理解できたり、モニターの役割を理解する良い機会になることは間違いありません。

CRCが本来の業務に従事するために

CRCの負担を減らし、本来の業務に従事してもらうためには、CRCだけができる業務と、CRCでなくてもできる業務を整理する必要があります。

CRCでなくてもできる業務であれば、外注することも可能だからです。

CRCのように治験に必要なスキルの高い人材は、探すのが困難で、コストも高くつきます。

一方で、治験事務局の業務は、資格などは不要なため、細かい作業が得意な方がいれば、効率よく運営できるものです。

たとえば、医師主導治験では治験審査委員会に必要な書類を自分たちで作成・印刷・ファイリングしなければなりません。

もしも、こういったコストでさえ見積もれないということであれば、治験事務局として、治験審査委員会に提出する書類そのものを見直しする必要があります。

問題点3:医師主導治験における研究費に関する課題

医師主導治験における、研究費について解決できれば、多くの問題点を解決できると言っても過言ではありません。

その中でも、具体的にどのような問題が起こりやすいか、ご紹介します。

そもそもの研究費が少なく、人材確保や品質管理に問題が生じる

医師主導治験においては、人件費に回す費用が捻出できないという事例があります。

ここは、経験あるコンサルタントを入れて、費用の見積もりを出してもらうことをオススメします。

医師主導治験を完結させるために必要な、金額の見積もりを誤った、あるいは、実施後にCROなどの外注先の選択を誤ったということが理由です。

研究費には、いくつか可能性があります。

公的な研究費の他に、病院として研究費に当ててもらえるケースもあるため、可能性についてしっかり調査しておきましょう。

また、クラウドファンディングなどを上手く使えば、事務局員1人くらいは採用できることもあります。

医師主導治験の費用については、「医師主導治験の費用:補助金や企業からの資金提供を受ける際の注意点」の記事に詳しく書いています。

医師主導治験の研究費は、管理部門の協力が必要

治験を進めながら、研究費についても管理するのは、労力が取られる作業です。

また、得られた研究費を全て自由に使えるわけではありません。

そのため、研究費の使い方を確認するために経理課にも協力を依頼して、連絡・調整をしていくようにしましょう。

問題点4:治験責任医師が医師主導治験の知識や理解を深める機会が少ない

企業治験にしても、医師主導治験にしても、医師が治験を理解する機会が非常に少ないという問題があります。

理由は、通常診療をしながら、治験を動かして行くため、治験の細部にわたる理解をするに至らないためです。

また、責務が多い割に、インセンティブの配慮が不十分なこともあり、モチベーションが上がらないということも理由に挙がります。

実際のところ、治験の打ち合わせの時間を確保したり、各種委員会に出席することがやっとではないでしょうか。

そういった場合は、医師主導治験シーズ段階から、準備、被験者登録、新薬または新医療機器承認までのイメージを描けるように、前もって理解しておく必要があります。

また、何を準備すべきか、何が問題点として挙がる可能性があるか、など早い段階で認識できるように、治験責任医師と二人三脚で治験の進捗を管理できる治験事務局担当者を配置することも重要です。

医師主導治験の全体像を把握できている、治験事務局担当者は、積極的に、治験責任/分担医師への教育に協力するべきでしょう。

院内の人材だけでできることもたくさんあります。

まとめ

遭遇する可能性のある問題点や課題について触れ、解決策をお伝えしました。

院内の人材でまかなえる部分もあれば、外注でリソースを増やす方法もあります。

今一度、治験事務局やCRC業務の部分的な見直しを行い、外的リソースの活用も視野に入れて、新たな治験に取り組んでみてはいかがでしょうか。

医師主導治験を進めていく上での問題点を事前に把握することで、時間とコストが少しでも縮小できましたら幸いです。

医師主導治験と企業治験の違いについて知りたい方は、「「医師主導治験」と「企業治験」の違い 6つのポイントを抑える」の記事に詳しく書いています。

医師主導治験の流れと注意点について知りたい方は、「医師主導治験の流れ・注意点をわかりやすく解説」の記事に詳しく書いています。

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